谷間に初夏の風が吹き渡る頃、只見の山々では蝦夷春蝉(エゾハルゼミ)が鳴き始めます。
蝦夷春蝉は五月下旬頃発生する小さなセミで、主にブナ林で生きています。陽が差すと一斉に鳴き始め、
陰ると一斉に鳴き止む習性があります。夏蝉ほど大きな鳴き声はなく、あたかも呪文を呟くような鳴き声ですが、
全山で一斉に鳴き始めるので山が鳴っているように聞こえます。
この蝉は、昔、きこり達が山仕事に入り、暇に任せて博打に興じた挙句、道具を取られてしまい仕事が出来なく
なって、山中を「よーき よき よき なた なた なた」と泣きながら探しまわり、終いに蝦夷春蝉になったと
いう伝説があります。山の中でこの蝉の鳴き声を聞くとブナ森の静寂をあらためて感じます。
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